こんなことなら売れるんじゃなかった!?

数年前に購入したスピッツのエッセイ『旅の途中』(幻冬舎)。
その中に、草野マサムネ氏による、こんな一節がある。

『ロビンソン』の大ヒットとその後の「スピッツ・バブル」のような売れ方は、
俺にとってよかったことばかりじゃない。
大きなマイナスも同時にもたらした。
自分の予想の範疇を超えて名前と顔が売れてしまって、
わずらわしいことばかりが増えてしまった。
正直に言えば、プライベートに関しては、
「ロビンソン」後の三年は楽しい思い出はほとんどない。
街を気楽に歩けなくなったし、
住んでいるアパートの前でファンの子が待ち構えていたり、
留守番電話のメッセージがイタズラ電話でいっぱいになっていたこともある。
本当にうんざりするようなできごとがたくさんあった。(中略)
プライバシーに踏み込んでくる人が増えたときには、
いい加減、この人気が落ち着いてほしいな、と思っていた。
音楽をやるっていうことがそんな世界だったら、もういいや。
俺はそういう世界ではがんばっていけないな。
そんなふうに思うようになってしまった。

『ロビンソン』後の三年について、
「楽しい思い出はほとんどない」と言い切っているのが衝撃だった。

よほどのストレスだったと見える。

アイドルや俳優なら、女性にキャーキャー言われたい人もいるだろう。
ミュージシャンの中にも、「女にモテたいから」という理由でバンドを始めたという人がたくさんいる。

でもマサムネ氏は違った。大金を稼ぎたかったわけでもない。
ただただ、大好きな音楽を続けていきたかっただけである。

それこそ、ささやかな成功で十分だった。

しかし、ささやかな成功でとどめるのも至難の業だ。
その後すぐ売れなくなるか、逆にブレイクするか・・・ってなっちゃう。

私はマサムネ氏のこのコメントが頭にこびりついている。

それゆえ、今まで光の当たらなかったスポーツが注目され、その中のスター選手が急に脚光を浴び大騒ぎされる状況を危惧するわけである。

この選手たちは、別に女性にキャーキャー言われたくてそのスポーツをやっているわけではない。純粋にそのスポーツが好きだからである。

困ったことに、プレー以外のところに食い付く(アイドル視する)女性がわんさといる。
そういった人たちがまた、タチもマナーも悪いのだ。

しかも、スピッツが大ブレイクした時代と違って、今は、所構わずスマホでパシャパシャ写真を撮られ、すぐさまSNSやツイッターにアップされ、いろんな情報もネットで晒される。
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有名になること自体が、トンでもなくおっとろし~世の中になっちまった。
強靭な精神じゃないと、身も心も崩壊しそうだ。きっとマサムネ氏なら崩壊してた。

「これだけファンが増えたことについてどう思いますか」と聞かれるたび、男子バレーの石川祐希選手は、「感謝していきたいと思います」とか「感謝しないといけないと思います」と答える。

本音は隠して、そう答えるしかないのがツライ。
てかやっぱ、「感謝しています」とは言いづらいんだな(苦笑)。

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