理知的な理系人間が理性を失う時

そうなってしまうのではないかと、ある程度予測できていたがゆえのショックというのもあろう。
もちろん私は彼とは無関係であるが、その死はかなりショックであった。

彼の死で「真相は闇の中」などと言われている。
でもこのSTAP問題は、実は単純な構造なのではないか、とも思う。

組織の中で、一目も二目も置かれる超優秀な人材が抱える「秘蔵っ子」ってことで、いろんなことが無条件でパスされていく。

2人きりの出張が年に50回以上あっても、誰もとがめない。
この2人に関して言えば、完全な無法地帯と化していたのではないか。

「秘蔵っ子」と言ったって、優秀だという理由で彼女に目をかけたのではない。

その女に可愛げがあったというだけ。
「センセ、センセ」と言って、なついて甘えておだてて、相手を気持ち良くさせる。

彼にとってその女はスペオキ(=スペシャルお気に入り)となる。

Nスペで、彼が彼女に送ったメールが公開されていた。
その中の一文に「あなたと論文準備できるのを、とても嬉しく楽しく思っております」とあった。
やはりそこには微かな私情が感じられる。ビジネスレター以上、ラブレター未満。

「恋は盲目」に近いものがあるかもしれない。
よもやその女がインチキをしているなどということは思いもしない。

だから彼女の言ったことを鵜呑みにする。
疑いもしない。検証もしない。

この世紀の発見は、指導をしている自分の手柄にもなる。
「先生のおかげです!」と、その女にも感謝され、ますます尊敬されることにもなる。

2人の共同作業の成果を世間に早くお披露目したい。そのムードに酔いしれたい。
早く発表せねば。早く、早く・・・。

そして、フライングとも取れるほどの早い段階での発表となる。
大した確証も得ないまま。

その後、数々の疑義が生じる。
彼自身の中にも、彼女に対してわずかな疑念が生じる。

でも同時に、それを打ち消したい気持ちも生じる。
「そんなはずはない。彼女はそんな人間ではない」
彼女を否定することは、自分を否定することにもなってしまう。

しかしふと気付くのだ。
「ひょっとしたら自分は、ダマされていたのではないか・・・?」

それと同時に、自分の浅はかさについても気づかされる。
とんでもなく恥ずかしく情けない気持ちが襲ってくる。
「何てことを・・・自分はどうかしてた・・・」

そして、追い詰められた彼は最悪の決断に至る・・・。

彼女宛ての遺書には「STAP細胞を必ず再現してください」と書かれてあった。

最後まで「ない」とは言わない彼のプライドの高さと、彼女の「ある」という意見を尊重する気遣いが垣間見えた。

自らの死で、実験中止のルートを彼女に作ってあげたのかもしれない。
「精神的ショック」を理由に「実験が手につきません」と言えば済むから。

中止になったとしても、「あったのかもしれない」という可能性だけは残る。
そして彼女は事あるごとに言うのだろう、「何もなければ、再現できてました。STAP細胞は本当にありまぁす」と。

グレーなままの幕引きというのは、私が一番危惧していたことである。
しかし、余計なものに莫大なカネ(=税金)をつぎ込まなくて済むと考えれば、いいかもね。

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